誰かの何かの文章置き場

気晴らしにときどき書く文章の置き場所です

インクリメント

年が明けて早々に僕達は集まり、白い息を吐きながら神社に小銭を投げ込み、人ごみにもみくちゃにされながらおみくじの内容について話して笑った。ヤスノリは小吉で、アキコとモモカが中吉で、カズヨシと僕は凶だった。アキコのくじには「想い人は現れます」…

ハンド・イン・ハンド

彼の差し出した手のひらを、彼女はいつだっておそるおそる握り返す。 まるで何か許されないことをしているみたいに。 彼女から手をつなぐことは絶対になかった。 彼と彼女のつきあいはほんの1カ月前に始まった。 きっかけは彼女の家の猫が家出をしたときに…

アングリー・ガール・チェインド・アンド・ブロークン

彼女の母親は、大した理由もなくしょっちゅう彼女をひどく叱りつけた。 まだ6才にもならない幼い少女に、歩き始める足が右なのか左なのかとか、意味の分からない理不尽なことで。繰り返し、繰り返し。 それは決まって父親の目の届かない場所で行われた。そう…

ジンギスカン・ドリーム

ほっといてくれないか。とセンパイはいう。 センパイは違う部署に勤める同期の友人で、年齢は私の4つ上だった。他の同期の中にセンパイと同じ大学出身の奴がいて、その彼がセンパイをセンパイと呼ぶせいで、センパイの呼び名はそれに落ち着くことになった。…

サウンドボックス・ロボット

おい、曲作り手伝ってくれよ。 ニイジマサヤカが挨拶もせずに彼の部屋へ飛び込んできたのは、8月の終わり、残暑も厳しい夏の夕方だった。彼は一人暮らしで、作曲と編曲で飯を食っている音楽家の端くれだった。有名アーティストに曲を提供したこともある。超…