インクリメント
年が明けて早々に僕達は集まり、白い息を吐きながら神社に小銭を投げ込み、人ごみにもみくちゃにされながらおみくじの内容について話して笑った。
ヤスノリは小吉で、アキコとモモカが中吉で、カズヨシと僕は凶だった。
アキコのくじには「想い人は現れます」とあって、ヤスノリは浮気は止してくれよと笑い、アキコは惚れ直すってことじゃない?とさらりと言ってのけた。
日が昇ってからも気温は氷点下のままで、僕達は寒さについて一通りの文句を言ったあと、駅の近くにあるファミレスに入ることにした。
彼女の海外への転勤を初めて知った僕達は彼女の心配をしたが、彼女自身はそのことを大して気にしていないようだった。
僕とモモカの好き勝手な野次のあと、ヤスノリの目標はフルマラソンに書き換えられ、アキコの海外旅行はヤスノリとアキコの新婚旅行になった。ヤスノリのプロポーズは、モモカの「結婚して行けばいいじゃない」という言葉に対する「じゃあ、そうする」という、なんとも締まらない一言となり、僕達は彼と彼女の思わぬ成り行きを盛大に喜んだ。
ヤスノリはまずタバコを止める方が先じゃないのか、と苦笑し、モモカはそういえばベトナムに味噌ってあるかな、なかったらインスタントのみそ汁を持っていかないとね、と呟いた。
好きなものを見るとき、聞くとき、食べるとき、触るとき、俺はそれが嬉しい。
だから好きなものを見付けて、増やして、もっと好きになって、嬉しい気分になれる瞬間を増やしたいと思う、と。
少しの間をおいてから、最初にモモカがじゃあアタシもそうする、と手を挙げて、それからヤスノリとアキコが頷いた。
3人がそろって僕を見つめ、僕もまたカズヨシに同意した。
今年も一年宜しくお願いします。と、なぜだかそれだけ敬語で挨拶を交わして。