ジンギスカン・ドリーム
ほっといてくれないか。とセンパイはいう。
頭の性能はすこぶる良いクセに、なぜセンパイが2度も浪人、あるいは留年することになったのか。私達は誰も知らない。
どうしたんですか、いったい。
理由なんてないよ。
素早く提供されたトンカツめがけ、私は勢いよくソースをぶちまける。
はっきり言って、私は落ち込んだセンパイが嫌いだった。
は?
まさに夢ですね。いいですね。3億円あたったら何しますか。
海外旅行ですか。いいですね。どこの国がいいですか。
なんで。
ジンギスカンですか。いいですね。私も好きです。肉。
チベットですか。
エベレストのことでしたっけ。いいですね。空気が綺麗で美味しそうですよね。山。
密度3分の1だけどな。
トンカツの最高の友人は、やはりキャベツの千切りに違いない、と私はいつも確信する。
は?
今週末は高尾山登って、帰りに焼肉ですね。
は?
センパイの希望通りですよ。美味しい空気吸って、美味しい肉食べて、あとは温泉とかいいですね。
マジか。
マジです。
センパイが苦笑する。
落ち込んだときは夢を語れ、というのは私の恩師の言葉だった。
その通りだと私は思う。
落ち込んだときほど夢を語るのがいいと私も思う。
ごちそうさまでした。と私は箸を置く。
マジです。
その通りだと私は思う。
落ち込んだときほど夢を語るのがいいと私も思う。
つぅか、はやっ!と驚くセンパイのトンカツはまだ3分の1ほど残っていた。標高8848mの空気の密度と同じだ、と感心する。
奪ってやろうか、と意地悪く思案し、しかし落ち込んだセンパイから肉を奪うのはかわいそうかなと考え直し、食うか、と聞かれて迷わず箸を躍らせた。
はやっ!とセンパイが笑った。
センパイのイヤホンはいつの間にか鞄の中にしまいこまれていた。
ところでセンパイ、ジンギスカンってモンゴル料理じゃないですよ。
マジか。
マジです。
ぴったり1分の1になったお腹を満足してなでる。
週末が楽しみだ。
センパイも楽しみだと思っていればいいな、と私は思う。
センパイのイヤホンはいつの間にか鞄の中にしまいこまれていた。
マジか。
マジです。
週末が楽しみだ。
センパイも楽しみだと思っていればいいな、と私は思う。